極東の窓

ロシア極東連邦総合大学函館校がお送りする極東情報満載のページ。
函館から、ウラジオストクから、様々な書き手がお届けします。

イカの街、函館をささえるロシア語

 漁火は夏から秋にかけて函館の海を彩る風物詩である。イカは函館市の魚であり、港まつりでは「いか踊り」を踊る。イカソーメン、いかめし、いか徳利、イカから作られた函館名物は数知れない。
 ところで、こんなに函館になじみの深いイカにロシア語が関係していることをどれだけの人が知っているだろうか。
 東シナ海から日本海南西部で生まれたイカは成長に従って北へ北へと回遊し、ロシア沿海州近海が格好の漁場となる。船はイカを追いかけてロシア200海里内に入ることもある。日本の漁船がイカを追ってロシア200海里内で漁をする場合、特別な許可が必要であり、その権利を持った船は日本国内で50数隻しかない。そしてその船がいか漁に出るときには、ロシア海域内に入る入らないに関わらず、ロシア人公務員をオブザーバーとして乗船させる決まりになっている。オブザーバーは日ロ政府間で決められた漁獲量を日本側が守っているか否かを監視するのである。
 オブザーバーは主にロシア極東地方からやってくる。函館渡島いか釣漁業協議会に所属する船は8隻、昨年のオブザーバーはすべてウラジオストクから来たが、今年は全員カムチャッカからやって来た。
 いか釣船の乗組員は7~8名、ロシア語はほとんどわからない日本人の中にロシア人オブザーバーはたった一人で乗り込み、海に出なければならない。漁模様にもよるが、1ヵ月程度は陸に上がれない。つまりロシア人はロシア語が通じないまま船に乗り続けるのである。
 そのロシア人が函館に上陸したときに、我々ロシア極東大学函館校がお手伝いしているのである。
 函館を出港する際の手続きから買い物、離函のアテンド、さらには海上より緊急連絡が入った際には電話で通訳をすることもある。学生を中心に、時には教職員やその家族まで動員して通訳としてお手伝いするのである。
 函館の船ばかりではない。日本全国から出港した船が、函館港で水揚げする。函館魚市場の水揚げ量が増えれば、それに付随する産業、例えば加工業者や運送業者なども仕事が増え、函館の街も潤うのである。
 言葉は大事である。1ヵ月も海の上で狭い船内に暮らさなければならないのだから、コミュニケーションが図られなければ、漁にも差し支えかねないのだ。いか釣り船のみなさんが安心して漁をし、函館により多く水揚げできるようにするためにロシア語サポートが不可欠なのである。
 おいしいイカが食卓に上るまでに、こんなことが行われていること、ご存知でしたか?

ロシア極東国立総合大学函館校事務局  大 渡 涼 子