極東の窓

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ターボ・レアリズムとヴィクトル・ペレーヴィン

 一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第1回目の講話内容です。
テーマ:「ターボ・レアリズムとヴィクトル・ペレーヴィン」
講 師:デルカーチ・フョードル(本校副校長)
 “ターボ・レアリズム”という言葉は、みなさんにはなじみがないと思います。90年代、ペレストロイカ以後にロシアで起こった新しい文学の流れですが、国内でもあまり知られていない言葉で、むしろ日本で使われている言葉です。
 “ターボ・レアリズム”は知らなくても、「巨匠とマルガリータ」の作家、ミハイル・ブルガーコフやゴーゴリについては、ある程度の理解はあると思います。
 SFは戦前から人気がありましたが、SFのためのSFはおもしろくありません。我々の世界について、語られていないものは文学ではない。この世の中の話が裏側に含まれているものです。しかし解釈は研究者によって違います。
 アレクサンドル・ベリャーエフやストルガツキー兄弟は宇宙というテーマの裏側に、人間性や我々の内心の世界をわかりやすく見せました。
 ペレーヴィンは変った人間で、いつも黒いサングラスを外しませんでした。
 90年代、ソ連崩壊とともに、ソビエト・イデオロギーが放棄され、宗教への関心が高まると、雑誌「科学と宗教」が人気となりました。この雑誌は宗教のインチキをばらす月刊誌ですが、ペレーヴィンは東洋文化部を担当し、禅・ヒンドゥー教や密教、インドの教えとカール・マルクスなどをグロテスクな形で表現しました。それは無を表現し、不思議な感覚を与えました。
 その後、作家になりますが、日本語にも翻訳されている「昆虫生活」では、人間を虫に例えて全く違うものに見せました。
 「ジェネレーションP(=ペプシ・コーラの世代)」という小説は、広告会社のコピーライターであるタタールスキーが主人公で、90年代に映画化もされました。改革の時代を象徴したもので、キャッチフレーズは「新しい時代はペプシを選ぶ」でした。私が子どもの頃、ソ連ではコーラと言えば、コカ・コーラではなく、ペプシでした。モスクワに行った人のお土産にペプシをもらって、とても喜ぶという時代でした。
 映画の中でさまざまな広告のコピーが登場しますが、それはソ連と言う時代を経験した人にしか理解できないものが多く、外国人に説明するのはとても難しいのですが、一つ紹介しましょう。
 パーラメントというタバコがありますが、そもそもパーラメントの意味は“議会”です。タタールスキーがこのタバコのコマーシャルを作るにあたり、93年モスクワ騒乱の際に戦車が並び、クーデターの象徴となった議会の建物を巨大なパーラメントの箱に変えて、「我々は祖国の煙を楽しむ―パーラメント」というキャッチコピーを考えました。これはロシアでは誰でも知っている有名なフレーズになりました。
 「恐怖の兜」はギリシャ神話をモチーフに書かれたプロジェクトで、インターネット・フォーラムを迷路になぞらえた作品で、映画化するのは不可能だと思います。
 ペレーヴィンの作品は、結末は予想できますが、その中には哲学が含まれています。日本語訳されている作品もありますので、実際に読んでみてはいかがでしょうか。